ツーリング好きかと聞かれれば、正直なところ、そうでもない。
道を知らないうえに方向音痴でビビリなもので、出かけるのが億劫だというのが最大の理由。
それでもバイクに乗るのが好き。
風の向こうの景色を切望してしまう。
ここではないどこかに行きたい。
自分の中の大いなる矛盾。

でもそんな矛盾を忘れる瞬間がある。
どこまでも光のラインが自分をいざない、時間という筆が景色を何色にも塗り替えてゆく。
それが「ここ」であろうと、「どこ」であろうと、場所は関係ない。
「いま」をつかまえているという実感が、すべての欲を満たしてくれるのだ。

先日、友人の写真展に行った。
ピンホール写真家たちのグループ展。
その入り口には友人による挨拶文が掲示されていた。

「レンズがないカメラで撮影する針穴写真は、不自由もあり失敗も多いですが、
それらを補って余りあるほどの驚きと感動を与えてくれます。針穴を通してフィルムに流し込まれる、
光や時間と、私たちが楽しんでる想いを感じていただけたら幸いです」

私は写真家ではないけれど、共通する何かを感じた。
バイクに乗ると覚える感覚。感動。

車に比べ、実にバイクとは不便なものだ。
夏は激暑く、冬は激寒い。運べる荷物は限られてるし、いちいちヘルメットかぶって、装備して。
おまけに止まっているときは足をついてなきゃ倒れちゃう。
走っててもちょっとしたミスで転んでしまう。
失敗がきちんと失敗として成立してしまうのだ。
それでも「それらを補って余りあるほどの驚きと感動」を与えてくれるのがバイクなのだ。

猛暑の東京から長野に向かいながら書いた、心のメモより。

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